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星先生の健康コラム

2019年 第3回

 

 最近, 春と秋が短くなり, 身体が暑さ寒さに順応する間もなく夏も冬もやってくるように思います。朝夕寒くなりはじめ, 血圧も上がりやすくなってきましたので, 心臓とも密接に関係する高血圧を取り上げます。

 血圧とは, 心拍出量(心臓から送り出される血液量)と末梢血管抵抗(血液の流れにくさ)とを掛け合わせたもので, “血管壁に与える血液の圧力” といえます。血圧を測った時, 上が136, 下が90などといいますが(136/90mmHgと表記), 上とは収縮期血圧のことで, 心臓が収縮して大量の血液が心臓から送り出され, 動脈壁に最も圧がかかる状態での血圧です。加齢などで血管が硬くなると血圧は一層上がります。下とは拡張期血圧のことで, 循環した血液が心臓内に戻っている状態ですので, 動脈内の血液量は減り血管壁にかかる圧は低くなります。

 

 血圧が140/90mmg以上あれば, 高血圧と診断されます。高血圧は全国で約4300万人いるとされますが, そのうち管理良好(140/90 mmHg未満)とされるのは27%にとどまります。残りは高血圧を認識していないか, 認識していても未治療, あるいは治療を受けているが管理不良と推測されています。

 なぜ高血圧が問題になるのでしょうか。それは致死的な脳血管障害や心不全, 慢性腎臓病などを誘発し, 認知症などとも関連するとされ, 人生100年時代を目前にして, 適正な血圧維持が健康寿命(心身共に自立し, 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を延ばすと考えられるからです。

 

 今年4月, 5年ぶりに高血圧ガイドラインが更新されました。一部抜粋すると, 高血圧の基準は従来通り140/90mmHg以上でしたが, 新たに正常血圧は120/80mmHg未満と定義されました。正常血圧を超えた場合, 75歳未満は130/80 mmHg未満, 75歳以上は140/90mm Hg未満を降圧目標とします。

 ガイドラインの数値は以前と比べてやや厳しくなりましたが,  脳・心血管病のリスクを減らすためには, 降圧薬を飲めば良いというのではありません。まずは高血圧と認識して, 生活習慣を修正して降圧に努めます。具体的には、①減塩 6g/日未満 ②野菜や果物(但し, カリウム制限が必要な腎障害患者では推奨されません), 低脂肪の乳製品を多く摂取し, 脂身の多い肉類や糖分は控える ③適正体重の維持:BMI (体重[kg]÷身長[m2 ]) 25未満 ④運動 ⑤節酒 ⑥禁煙などです。

 

 青葉区民の平均寿命は, 男性は日本一, 女性も9位と長寿ですが, 健康寿命は男性で9年余り, 女性では11年余り, 平均寿命より短くなります。生活習慣を今一度見直して, 今後は健康寿命を延ばしていきましょう。        

                     星 恵子(たまプラーザ内科クリニック)

2019 年 第二回

 今回は、心臓の病気を取り上げます。年を重ねると増えてくる心疾患に、不整脈、心臓弁膜症、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)などがあります。家電製品も長年使っていると故障してきます。我々の身体(臓器/部品)も同じで、眠っている間も休まず働きづめですから、当然、不具合が生じてきます。

 

 前回、心臓は血液を全身に送り出すポンプであるとお話しましたが、その役割を果たすために、心臓は自らが電気刺激を生み出し、その信号を心筋全体に送り届けるシステムを備えています。電気刺激を生み出し、「心臓ペースメーカー」となる特殊な心筋が右心房壁にあり、「洞結節」と呼ばれます。ここから、規則正しく一定のリズムで発生した電気刺激によって心房が収縮し、次に、心房と心室のつなぎ目にある「房室結節」が信号を受け取り、左右の心室が収縮します。この繰り返しが心臓の収縮・拡張のリズムを生み出し、拍動(脈拍)となります。

 

 正常な拍動は、1分間に50〜100回、規則正しく一定のリズムで刻んでいます。この拍動が乱れた状態が「不整脈」で、大きく3つのタイプに分けられます。

①期外収縮:正常な拍動の中に、突然、不規則な拍動が混じる。不規則な拍動があった際、胸の不快感で気づくことが多く、健康な人でも起きます。ほとんどは治療不要ですが、連続して、あるいは頻繁に起きる場合は、薬による治療が必要です。

②徐脈:脈拍が遅い(1分間に50回未満)。電気刺激を生み出す洞結節に異常が起きる「洞不全症候群」や、心房から心室への信号が適切に伝わらない「房室ブロック」などが原因となります。致命的な状況には至りませんが、心臓からの血液量が減り、脳血流量が不足するとめまいや失神が起き、これが元で転倒や意識障害などの事故につながる恐れがあります。治療には「ペースメーカー」を装着します。最近は、装着したままMRI(磁気共鳴画像化装置)検査を受けられる機種も登場しているようです。

③頻脈:脈拍が速い(1分間に100回以上)。拍動が100回/分を越えると「頻拍」、250回以上は「細動」といいます。細動が心房で起きれば「心房細動」、心室で起きれば「心室細動」となります。

・不整脈の中で、最も危険なのが「心室細動」です。心室細動をきたすとポンプ作用は消失し、10秒ほど続くと意識喪失、10分続くと脳死に至ります。

・心房細動は、心房がけいれんを起こした状態で、心房内の血液が淀み血栓ができやすくなります。この血栓が心臓から飛び出し脳の血管に詰まると脳梗塞となります。異常なリズムを元に戻す治療の他に、血液を固まりにくくする抗凝固剤が使われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星 恵子(たまプラーザ内科クリニック)

2019 年 第一回

 日が少しずつ伸び、ほんの少し春の気配が感じられます。今回は心臓です。心臓の一番の役割りは、酸素や栄養分を豊富に含んだ血液を全身に送り出すポンプ作用です。心臓の大きさは握り拳大で、毎分60〜90回ドクンドクンと休むことなく生涯にわたって動き続けます。ヒトの血液量は、体重の1/13、あるいは体重の7〜8%とされます。体重が60kgの人なら約5Lの血液が体の中を流れていることになります。心臓から送り出される血液量はおよそ1回に70mLですので、ざっくり言えば、約1分間で血液は入れ替わり、元の流れにあらずです。

 

 心臓は筋肉で覆われ、左右の心房と心室と呼ばれる4つの部屋からなります。左右の心房には心房中隔、左右の心室には心室中隔という壁があり、また心房と心室の間には弁がついており、血液の逆流を防いでいます。全身から戻ってきた血液は(静脈血:二酸化炭素や老廃物を含む血液)、上大静脈・下大静脈を経て全て右心房に流入し、順次4つの部屋を通過していきます。すなわち、右心房→右心室→肺動脈→肺臓(ここでガス交換が行われ、酸素が豊富な血液になる:動脈血)→肺静脈→左心房→左心室→大動脈へと送り出され、大、中、小のさまざまな血管を通り最後は毛細血管へと全身に血液が送り届けられます。すでに取り上げた肝臓も、腸管も、血液から得たエネルギーで働きます。そして何よりも、心臓自体が自身の送り出した血液の供給を受けて、役割を果たします。この心臓のポンプ作用が、さまざまな原因により失われた状態が心不全です。

 

ベストセラーになった「ゾウの時間 ネズミの時間/サイズの生物学」をご存知の方も多いと思いますが、体のサイズに応じて違う時間の単位があると述べています。ネズミは”チョロチョロ”と動き回り寿命は2-3年ですが、ゾウは”のっしのっし”とゆったりした動きをして70-80年生きます。ゾウはネズミよりずっと長生きですが、それぞれの寿命を心拍数で割ると、どちらも15-20億回となります。つまり哺乳類ではどの動物でも、一生の間に心臓は約20億回打つ計算になります。心臓がそれぞれの生物に備わった「時計」だとすれば、すべての哺乳類は20億回という平等な「時間」を持つことになります。科学が進み、医学・医療もその恩恵を受けて年々長寿になっていますが、20億回で心臓が止まるとしたら、生物学的にヒトは何歳まで生きるか、試しに1分間の脈拍を測って計算してみてはいかがでしょうか。

   星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018 年 第三回

 暑い夏でした。冷たいものの取りすぎで胃腸を悪くしませんでしたか。今回は大腸を取り上げます。大腸の長さは約1.5mで、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸の3つからなります。小腸(回腸)から大腸(盲腸)への移行部は回盲部と呼ばれ、回盲部の下方に盲腸、その下端に小指くらいの大きさの虫垂がぶら下がっています。また、移行部には回盲弁がありますが、回腸から盲腸に入った内容物を逆流させないためで、大腸には大腸菌をはじめとする腸内細菌がたくさん住みついており、これらが回腸に逆流して炎症を起こすのも防いでいます。

 なお、回盲部は腸管の中でも、結核やがん、潰瘍などができやすい場所です。また、俗に、”盲腸になる”、”盲腸にかかった”といわれますが、多くは盲腸ではなく虫垂に病原菌が入って起きる炎症です。虫垂には感染防御機能を持つ集合リンパ小節が密集しており、それゆえに、炎症(虫垂炎)を起こしやすいという特徴があります。

 

 大腸の働きといえば、①水分を吸収して糞便を形成する ②腸内細菌によって、小腸で消化しきれなかった食物繊維を発酵・分解したり、ミネラル類を吸収する ③作られた便を溜めておく ④溜めていた便を排出する、などです。①と②は結腸で、③と④は直腸で行われます。

 大腸の粘膜表面には、水分を吸収する細胞と粘液を分泌する細胞があり、大腸で水分が吸収されると、運ばれた内容物は徐々に硬くなり糞便が形成されます。粘液は硬い便の通過をスムーズにします。しかし、冷たいものの取りすぎなどで大腸の働きが弱くなると水分の吸収が悪くなり、下痢になります。下痢が続くと脱水になり、脱水がひどくなれば循環障害をきたします。では何故、脱水になるかといえば、食事や飲水で1日に摂取される水分は約2Lですが、唾液をはじめとする消化液など7〜8Lの水分が腸管内に分泌されます。我々の身体にとっても水分はとても貴重なもので、これらの約85%は小腸から、約15%は大腸から再吸収され、残りの約1%の水分のみが糞便とともに排出されます。従って、排便とともに大量の水が失われる下痢が続くと、容易に脱水になってしまいます。 

 最後に直腸です。長さは15〜20cmほどで内腔が広く、便の貯蔵に適しています。ここに便が溜められて一杯になると、便意を感じ、腸の一部や腹部の筋肉が収縮します。同時に肛門周囲の筋肉が緩んで便が押し出され、体外に排出されます。排便は毎日あった方が良いですが、2〜3日に一度でも、排便後にすっきり感があれば良しとしましょう。

   星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

2018 年 第二回

 街路樹の桜はすっかり葉桜となり、4月なのに夏日もありました。そこで、今回は急遽、蚊に刺されて発症する感染症を取り上げます。かつて、蚊が媒介する感染症といえば日本脳炎でした。幸いワクチンの定期接種や生活環境の変化により、今では年間10例以下で推移しています。ここ数年、話題になったのが、輸入感染症であるデング熱とジカ熱(ジカウイルス感染症)です。2014年、代々木公園周辺で蚊に刺された後、デング熱に罹り、その後160余人の国内発生例が確認されました。また、2015~16年にかけてブラジルを中心にメキシコ、カリブ海諸国でジカ熱が流行し、2016年のリオ・オリンピックに少なからず影響を及ぼしました。近年、日本から海外への渡航者は1600万人を超え、海外からの来訪者はアジアを中心に3000万人に迫ろうとしています。また、地球温暖化の影響で、日本でも熱帯病に感染する機会が増えています。

 デング熱もジカ熱もウイルスが原因で、これらのウイルスを持ったヒトスジシマカや、ネッタイシマカ(この蚊は、今の所日本に常在しない)などに刺されることによってヒトに伝播します。デング熱、ジカ熱ともに発熱と発疹がみられます。発疹以外の症状は、インフルエンザと似ていて、頭痛や関節・筋肉痛などが認められます。一般に1週間程度で回復しますが、一部は重症化します。デング熱の発疹は点状出血(ごく小さな出血班)や、所々白い斑点のある紅斑が見られるようです。一方、ジカ熱では半数に結膜炎もみられますが、一般にデング熱より軽症で2~7日で自然回復します。しかし、ジカ熱では、感染後にギラン・バレー症候群などの神経疾患を発症したり、妊婦さんが感染すると小頭症を特徴とする先天異常がみられ、問題となっています。

 まだ、これらの感染症に特効薬はありません。予防は蚊に刺されないことに尽きます。身近なことでは、植木鉢・プランターの受け皿の水や、水が溜まりやすい容器などを放置しないなど、蚊の卵が孵化しやすい環境を作らないことです。そして、流行地を旅行する時は、長袖のシャツやズボンを着用し、皮膚の露出を少なくします。蚊取り線香も有効とされます。また、渡航先によっては、トラベラーズワクチンが有効かつ必要です。それは、個人防衛のためと、海外から病気を持ち込まないためです。
   
星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

 

2018年 第一回

 明けましておめでとうございます。今年も身体を構成する臓器や器官を取り上げていきます。  さて、私たちの身体の中で最も長い臓器は何でしょう? それは小腸です。小腸は直径が3〜4cm、長さが6〜7mあり、十二指腸、空腸、回腸に区分されます。腸の長さは食べる物に関係し、一般に草を食べる草食動物は腸が長く、肉を食べる肉食動物は短いとされます。私たちヒトは肉も草(野菜)も食べ、腸の長さは肉食動物と草食動物の中間位ですが、食性からみると、食べられる物なら何でも食べる超雑食です。

 十二指腸は胃に続く消化管で、人の指を12本並べた長さであることから十二指腸と呼ばれます。空腸は小腸の長さの約2/5、回腸は3/5の長さがありますが、明確な境目はありません。

 

 小腸の役割は、食物を消化し栄養素を吸収すること、そして残ったものを大腸へ輸送することです。2つの特有な構造がそれらを可能にします。その一つが、小腸にある2層の筋肉組織です。内側は管をぐるりと周回する輪形の筋層、外側は管長方向に縦に走る筋肉です。小腸は、これらの筋肉によって蠕動運動・分節運動・振子運動を行い、腸内の内容物を3〜6時間かけて混和しながら大腸に送り出します。これらの筋肉、回腸よりも空腸の方が発達しているため、空腸では食物が速く通過し内部が空になっていることが多いため空腸と呼ばれます。

 もう一つは、小腸の粘膜表面にある無数のヒダです。顕微鏡で見ると、1mm程度の突起物が密生しており、丁度、絨毯の毛に似ていることから、腸絨毛と呼ばれます。このヒダを広げると小腸の表面積はなんと600倍にもなり、栄養素を効率良く吸収できるのは、この無数のヒダのお陰です。

 

 最後に、腸のガンについて。昨今、大腸ガンは罹患率第1位となり、身近なガンとなりました。幸い大腸ガンは進行が遅く、早期発見できれば生存率も高く、たちの良いガンといえます。一方、小腸ガンは希少ガン(年間発症率が10万人あたり6人未満)です。では、なぜ小腸はガンになりにくいのか、それは消化管の中心部にあり、外界の刺激を受けにくいためと考えられています。しかし、発見しにくいガンの一つです。大腸ガンを見つけるには検便検査が有効です。機会があれば積極的に受けましょう。

 

星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

2017年 第三回

 今回は肝臓の真下にある”胆のう”を取り上げます。胆のうは、長さ7~8cmで50쁼mLの内容量を持つ器官です。肝臓から十二指腸に向かって胆管という管が通っていますが、胆のうはその胆管にぶら下がるようにしてあります。
 胆のうに”石があるね”とか、”ポリープがあるね”といわれた方、手術で胆のうを取ってしまった方もおられると思いますが、胆のうは一体どんな働きをしているのでしょうか。
 胆のうは袋状をしており、中に胆汁をためています。胆汁は消化液の一つで、食物中の水に溶けない脂肪分を水に馴染みやすくして脂肪を消化し易くする働きがあります。ですから、胆汁がなければ、食物中の脂肪を消化吸収できなくなり、腸
内に溜まった脂肪の刺激により下痢をきたします。下痢になれば他の栄養分も一緒に失われ、栄養失調や水分不足に陥ってしまいます。 

前回のコラムでも触れましたが、胆汁は肝臓で作られます。肝臓が作る胆汁は、淡黄色のサラサラした液体ですが、胆のうで水分が吸収され濃縮されると濃い褐色(胆汁色素:化学的にはビリルビン)のどろっとした液体になります。
 このように、胆のうは胆汁をためておく(貯蔵)働きと、胆汁の水分を吸収して(濃縮)、脂肪の消化作用を強化する働きをもっています。この胆汁色素、赤血球の主成分であるヘモグロビンの分解産物で、糞便の色は胆汁色素によるものです。
 また、肝臓の病気が悪化して、皮膚や眼球結膜が黄色になる黄疸と呼ばれる病態も胆汁色素が関連します。黄疸は、肝細胞が傷害されビリルビンが血液中に増加してきたり、あるいは、胆汁の通路(胆道)で何らかの通過障害が起きて、胆汁が
逆流して血液中に入ると生じます。胃から十二指腸に食物が到達すると、胃酸による刺激が起点となり、十二指腸からセクレチンなどの消化管ホルモンが分泌されます。これにより胆のうが収縮し胆汁が胆管に流出します。この時、胆管の出口にあるオッディ括約筋という筋肉も緩むため、胆汁は容易に十二指腸に分泌されます。ここで脂肪と出会い、胆汁は脂
肪に猛アタックするわけです。

 脂っこいものを食べると、胆のうは一生懸命働いてくれますが、食べ過ぎればやがて疲弊し、胆石や胆のう炎などを誘発します。また、胆のうが切除されると、胆汁の貯蔵や濃縮ができず、脂肪の消化吸収が難しくなるため、油脂類の摂取を減らす必要があります。くれぐれも注意しましょう。 


星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

2017年 第二回

 今回は肝臓です。肝臓は胸部と腹部を分ける横隔膜の下、正中線より右寄りに位置し、成人では1200〜1400gあり体内最大の臓器です。血液を多く含んでいるため、食材のレバーと同じく暗赤色をしています。肝臓はたいへんな働き者で、分かっているだけでも500を超える役割を担い、①代謝 ②解毒 ③胆汁の生成・分泌に、大別されます。

 

 小腸から吸収された糖質、タンパク質、脂質などの栄養素は血液中に入り、そのあと肝臓に運ばれます。これらの栄養素はこのままでは体内に吸収されません。そこで、肝臓は栄養素を分解・合成して(代謝)、別の物質に変えたり、作り直したりして、栄養素を体内に吸収しやすくし、余剰分は貯蔵し、必要な時に放出します。

 たとえば、炭水化物に含まれるブドウ糖は、小腸から吸収され肝臓に送られると、グリコーゲンという物質に変化して肝臓に貯蔵されます。空腹で血糖値が低下してくるとグリコーゲンを再びブドウ糖に戻し、血液中に放出し血糖値を一定に保ちます。また、肉や魚に含まれるタンパク質は小腸でアミノ酸に分解され肝臓に運ばれますが、肝臓はこのアミノ酸から身体を支える筋肉や骨、血液などの成分であるタンパク質に組み替えます。また、よく悪者扱いされるコレステロールですが、大事な細胞膜の成分ですし、生命維持に欠かせない副腎皮質ホルモンや性ホルモンはコレステロールから作られます。このコレステロールの約7割が肝臓で作られ、残り3割は食物から得ています。

 アルコールも90%以上が肝臓で代謝されます。体内に入ったアルコールは肝臓で有害物質であるアセトアルデヒドに変化し、同じく肝臓にあるアセトアルデヒド脱水素酵素によって無害な酢酸と水に変えます(解毒)。飲み過ぎで有害なアセトアルデヒドの代謝が間に合わないと、二日酔いや肝障害の原因となります。

 また、肝臓は脂肪を消化する胆汁という消化液を作ります。胆汁は胆のうに貯えられ、脂肪分を含む食事を摂取すると胆管から十二指腸に排出されます(胆汁の生成・分泌)。

 

 肝臓はそう簡単には弱音を吐きません。それ故に「沈黙の臓器」と言われます。肝臓は少々傷ついても残った細胞が代わりに頑張って働いたり、仮に一部が切り取られても数ヶ月で元通りになるなど、驚くほど丈夫です。そのため肝臓の異変に気づいた時には手遅れになってしまう恐れがあります。肝臓を酷使せず、いたわってあげましょう(暴飲、暴食をさける)。

 

星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

2017年 第一回

 

 明けましておめでとうございます。穏やかな新年を迎えられたことと思います。今年は身体を構成する臓器についてお話をしていきます。

 七草がゆに関連して初回は胃です。お正月は身体を動かさずにご馳走を食べてゴロゴロしている人も多いはず。七草がゆは、正月7日(旧暦)の朝に一年の無病息災を祈って、春の七草が入ったおかゆを食べる習わしですが、ご馳走を食べて疲れ気味の胃腸を休める効用もあります。

 普段、我々は臓器の存在を意識することはありませんが、胃は例外で自己主張します。例えば、おなかがすいた時は“胃が空っぽ”、食べ過ぎた時には“胃がパンパンだ”と。また、食欲があり食事も美味しいと胃の調子がよいと感じ、健康だと思います。逆にストレスを抱えると、“胃が痛くなる”人がいます。

 「五臓六腑」といわれますが、胃は六腑の一つです。臓とは内部が充実している器官のこと、腑は逆に空虚な器官のことですが、ともに倉庫という意味があります。口から呑み込まれた食べ物は、一旦倉庫である胃に貯められ消化液の一つである胃液によってドロドロに溶かされ(消化)、小腸に送り出されます。ドロドロになった食べ物は小腸でさらに他の消化液によって分解処理され、食べ物から得られた栄養素は小腸から吸収されます。このように胃自らは、栄養素(糖分、タンパク質、脂肪)を吸収しません。胃はその存在自体を自己主張しますが、小腸が栄養素を吸収しやすいようにと、食べ物を貯蔵し消化しながら少しずつ小腸に送り出すという裏方的な役割を担っています。ただ、アルコールは身体のどこからでも吸収され、胃も例外ではありません。空腹時にアルコールを飲むとまもなくして気分がよくなることからも吸収しているなと実感できます。飲み過ぎにも食べ過ぎにも注意しましょう!

星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

2016年 第二回

 例年10月になると、インフルエンザ(インフル)の予防接種が始まるので、この時期、今年のインフルはどうなるのかなと思います。普通の風邪もウイルス感染により発症しますが、インフルが特別扱いされるのは、子供では急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している人では肺炎等を併発し、重症化する場合があるからです。また、インフルの感染力が強い場合は短期間で地域から全国へ、あるいは世界的に流行し、社会活動や経済活動等にも影響を及ぼす可能性があるからです。 

(1)受診するなら何時?:ほとんどの医療機関で、「迅速診断キット」により綿棒で鼻の奥やのどを綿棒で擦ってから10〜15分で、A型とB型のインフルを診断できます。但し、インフルの陽性反応は、ウイルス量がある程度増えないと現れません。また、抗インフル薬も発症して48時間以内の服用が最も有効であるため、インフル発症後(38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛等の症状が出てから)12~24時間経過した頃に受診するのがベストです(39℃以上の発熱がある場合は、この限りではありません)。

(2)流行前のワクチン接種:私達は細菌やウイルスに感染しても、必ず発症するわけではありません。ワクチンの一番の利点は、感染しても発病するのを抑える発症防止効果と、重症化の防止です。残念な点は、ワクチンはその年に流行が予測される複数のウイルスを混合して製造されるため、予測がはずれた場合は100%有効ではないこと、その予防効果は接種後2週から5か月間程度しかなく、毎年、接種しないと効果が得られないことです。

(3)外出は何時から?:インフル発症前日から発症後3~7日間は鼻やのどからウイルスを排出します。排出ウイルス量は解熱とともに減りますが、咳やくしゃみが続いている場合はマスクを着用する等、周りの人に移さないよう配慮しましょう。 なお、学校保健安全法では「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児では3日)を経過するまで」をインフルによる出席停止期間としています(但し、学校医その他の医師によって感染の恐れがないと認めた時は、この限りではありません)。

 

星 賢二(たまプラーザ内科クリニック院長)

2016年 第一回

 初回は夏に多い「食中毒」を取り上げます。食中毒とは、細菌やウイルスなどの病原微生物や、それらが産生する毒素や化学物質(フグ毒、キノコ毒、貝毒、トリカブト、有機リン等)に汚染された食物を摂取することで、嘔吐、下痢、腹痛等をきたす状態をいいます。一般に春から秋にかけては細菌性が多く、最近耳にするノロウイルスを中心に冬場にはウイルスが目立ちます。

 夏場(6月〜9月)に注意すべき食中毒は腸炎ビブリオと大腸菌です。それに、通年性ですが、わが国の食中毒の最多原因菌にカンピロバクターがあります。

 <腸炎ビブリオ>この菌は海水環境(3%の食塩濃度で最も増殖)で生息するため、原因食物は生の魚介類です。好塩性であるためウニなどの塩漬け加工品にも注意が必要です。しかし、近年は生食用鮮魚介類の加工、流通における衛生管理の向上により激減しました。

 <大腸菌>はヒトの腸管内に常在し無害ですが、一部が病原性を獲得し害を及ぼします。病原性を獲得した大腸菌の中でも毒素(ベロ毒素)を産生しない大腸菌は、食中毒も起こしますが、多くは乳幼児や高齢者の下痢、発展途上国で広く見られる下痢、旅行者下痢症などの原因になります。一方、毒素を産生する大腸菌は腸管出血性大腸菌とも呼ばれ(O157, O26, O111などが代表的)、血便や腹痛のほか、貧血や急性腎不全、脳炎などを合併して、時に死亡することもあります。原因食物として加熱不十分なハンバーグや輸入牛肉による牛タタキなどが知られています。感染力が強いため、しばしば集団食中毒を起こしてしまいます。近年大きく報道された事例に2011年の富山市の焼肉チェーン店におけるO111があり、2012年7月、牛の生レバーの提供は食品衛生法により禁止されました。また、井戸水や保菌動物の糞便に汚染された土壌や水が原因で野菜から感染した事例もあります。

 <カンピロバクター>の原因食物は鶏肉、豚肉およびそれらの加工食品です。この菌に感染して1〜3週後にギラン・バレー症候群という神経疾患を発症することがあります。

 食中毒のリスクを減らすには、①鮮度のよい食材を選ぶ②体調の悪い時は生ものを避ける③調理したら残さず食べ切る④冷蔵庫を過信しない⑤魚介類や生肉を切ったまな板や包丁は、その都度洗う⑥まな板は時々熱湯をかけたり、塩素系の漂白剤で除菌する。最後に、下痢の時には水分補給が必要ですが、冷たい飲料水は絶対やめて下さい。下痢を悪化させてしまいます。

 

 

先生紹介

 福島県喜多方市出身.1973年京都府立医科大学卒業.聖マリアンナ医科大学第3内科入局.医局長・助教授を経て1996年たまプラーザ内科クリニック開設.

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